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SPECIAL

TVアニメ「平家物語」で重要なキーになる“琵琶”

作品の琵琶監修&演奏を担当した後藤幸浩さんが
《琵琶のあれこれ》を解説!

琵琶とは?

主人公びわが演奏する楽器、琵琶はシルクロード経由で中国などアジア周辺から伝わったと言われています。

琵琶を大きく分類すると
①雅楽で使う楽琵琶
②盲目の僧が弾く盲僧琵琶を含む、琵琶法師の琵琶
③平家物語を専門に語る平家琵琶
④薩摩琵琶
⑤筑前琵琶
などがあり、薩摩琵琶は江戸時代以降、筑前琵琶は明治時代以降の楽器です。
私は普段、薩摩琵琶を弾いています。

「平家物語」の時代に関連が深いのは楽琵琶・琵琶法師の琵琶、もう少し後の時代にはなりますが、
平家琵琶です。

それでは、主人公びわのキャラクター設定でもある、琵琶法師に少し触れてみましょう。

琵琶法師

一休さんでおなじみ、一休宗純の室町時代の著作「自戒集」には "からには瞽者琵琶をひいて門々に史 (ふみ) をよむ。"という記述があります。
から=唐の時代には、盲人 (瞽者) が琵琶を弾いて、辻で物語を語っていたのでしょう。この風習が日本にも伝播し、盲目の琵琶弾きが物語を語り歩くようになったと言われています。

平兼盛の「びわのほうし」と題された和歌には"四つの緒に思う心を調べつつひきありけどもしる人もなし" (「平兼盛集」)と表現され、四つの緒=楽器が四弦だったことがわかります。また、“ひきありける”は弾き歩いていた、といことでしょう。
こうした琵琶法師は平安中期には貴族の屋敷にも出入りしていたようです。

右大臣藤原実資の日記「小右記」には "琵琶法師を召し、才芸を尽くさしむ。少禄を給う~" とあり、才芸を尽くさせ、ギャラをもらっていたということが分かります。また「芸を尽くさしむ」の部分からは、琵琶法師が多芸だったことも想像できますね。

そして、もうひとつ。藤原忠実の日記「殿暦 (てんりゃく)」には "院より琵琶法師二人これを給う。
歌と琵琶、夜陰に及ぶ。禄を給い遣わし了 (おわ)んぬ。"と記されています。
上皇の元から派遣された琵琶法師が二人、遅くまで弾き歌ったということです。琵琶法師は庶民の前での演奏から貴族の屋敷まで、幅広く活動をしていたのでしょう。院にも関連している琵琶法師から、在野の琵琶法師まで立場もさまざまだったようです。

主人公びわ

さて、本作品の主人公びわはどのようなタイプの琵琶法師なのでしょうか。制作時の打ち合わせで初めて主人公びわのキャラクターと、びわが持っている琵琶のデザインを見たときに、とんでもなくユニークで驚いた記憶があります。

少女であり晴眼者(視聴に障害がない人)のびわは一般的な琵琶法師のイメージではありませんし、携えている琵琶も半月と呼ばれる部分が通常は両目のように左右対称にあるのに、真ん中に大きくひとつだけ。貴族の屋敷に呼ばれて演奏したのではなく、平重盛と出会い、平家一門とともに生活し、その一部始終を見届けるというキャラクター。そして見届けた平家一門の話を琵琶で語り継いで行く、とても大胆・斬新な設定です。

架空のキャラクターであれば、びわが弾く琵琶の音や芸風も、画の雰囲気・場面設定・尺などに合わせて架空のものを考えてみようということになりました。

びわは白拍子の舞や今様の伴奏、平清盛にリクエストされての祈祷的演奏も聞かせ、おとう譲りのまさに琵琶法師的な存在です。

そして、平家の人々と暮らす少女・びわとは別に、長い白髪のびわが幻想的な空間で演奏するシーンが各所に登場します。幻想的なびわの姿は現代まで存在し続け、語り継いでいる存在にもなり得ると想像し、少女時代のびわとは違った独特な琵琶の音色になっています。

TVアニメ「平家物語」琵琶の収録について

物語のキーになるびわの語りのシーンも、びわ役の悠木碧さんが歌われています。

まず、私が琵琶と声の節 (旋律) を録音し、それを悠木さんが聞いて、録音にのぞまれました。悠木さんがご自分の耳だけで流れをつかみ、びわの喋りの声色と語りのシーンの住みわけをされたのはさすがです。少しハスキーな声色の語りは、この作品のイメージにはぴったりです。

琵琶の音使い、弾き方、語り・歌の節は、戦いの場面では薩摩琵琶の手法が合いますが、「祇園精舎」「祇王」他の場面は音階も薩摩琵琶とは違った要素を使っています。

私は普段、声と琵琶を弾き語りの形で同時に録音することが多いのですが、今回は声と琵琶を別々に収録しました。琵琶の音に合わせて悠木さんの声を重ねるためです。

また、幻想的なびわの語りのシーンの音楽は、牛尾憲輔さんのアレンジがとても斬新で、この作品でしかあり得ないような音作りになっています。

発売中のサウンドトラック「諸行鎮魂位相」には、この語りのパートの声を抜いたインストが収録されています。
アレンジの斬新さが良く伝わる音楽になっていますので、ぜひお聞き下さい。

参考文献
「琵琶法師ー〈異界〉を語る人びと」
兵藤裕己 著 岩波新書
「平家物語と琵琶法師」
むしゃこうじ・みのる 著 淡路書房新社

薩摩琵琶正派普門院流師範 後藤幸浩

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